営業しかない

限界営業マンの手記

最強パズドラーに、俺はなる。

 

 新年早々、床に伏した。それも訳無い。インフルエンザだった。確か仕事初めからちょうど1週間経ったくらいに大熱を出した。彼女とのデートの最中だった。彼女にも感染した。なんでも今年のインフルエンザは結構やばいらしい。僕が住んでいるマンションの裏に、街の医院があるのだが、インフルエンザ隔離室はかなり満員だった。一人ずつ一人ずつ鼻に綿棒を突っ込まれていくカオスな隔離室。結構な勢いで咽せたのも、かなり恥ずかしかった。(オッヘェッ!!とか言ってた気がする。)

 

 何はともあれ、僕は社畜だ。火を見るよりも明らかだ。有給など使うことは許されないような、そんな戦場のような営業職。営業は兵隊だ。だけどインフルエンザだけは仕方がない。5日間の出勤停止命令だった。新薬ゾフルーザの威力は凄まじく、僕の出勤停止期間の4/5を暇な時間へと変えた。こんな暇な期間、久しぶりだ、と思った。思えば、1年ほど前に無職の期間があった。が、転職だったりでちまちま動いていたので、5日間丸々家に引きこもる機会なんて、そうあったものじゃない。しめしめ、自分の時間を有意義に使おう。そう決意したのであった。

 

 とはいえど、我輩は社畜である。趣味はもうない。若き日、夢にまで見た武道館のステージ。ロックで食ってくから!と豪語していた僕なのに、今ではもうギターだって家に置いてないし、外出はできない。ゲームだって持っていない。持っているのはPCかスマホてなもんで、PCはmacだからネトゲはほぼ非対応ときた。てな訳で、スマホでゲームを始めることにした。それが、たまたまパズドラだった。

 

 最終ログインから相当の月日が流れていた。僕のパーティはもう”産廃”とまで言われるようなモンスターだらけ。パズル&ドラゴンズなのに、ドラゴンがもはや弱い。もちろん強いドラゴンもいる。だが、僕のドラゴンは弱い。それがなんとなく悔しい。僕は幾度となくパズルをした。どんなモンスターが相手だろうかワクワクしている自分がいた。そして幾度となくガチャを引いた。より強くなるために。努力は信念の強さだ。俺のパズルは誰にも止められない。弱いドラゴンに用はない。

 

 そんな具合で、社畜に唯一与えられた”インフルエンザ”という安息の時間が与えたものは、「パズドラへの信念」だった。熱きパズドラー達の声援を含んだ、最高潮のボルテージのオーディエンス。その中心にいつかは君臨すべく、僕はパズドラをやっている。最強の営業マンはもうやめだ、俺は最強のパズドラーになるのだ。マックスむらい見たいに、金持ちになるために。

 

おしまい