SHE IS SUMMER「CALL ME IN YOUR SUMMER」を科学する
SHE IS SUMMER「CALL ME IN YOUR SUMMER」
この曲との出会い
元来、可愛い女の子のボーカル+バリバリのポップが三度の飯くらい好きな僕ですが、その類を聴き漁っていた頃に彼女の曲「とびきりのおしゃれして別れ話をしよう」にハマった事が、この曲との出会いに繋がります。”別れ話”というネガティブなワードを可憐にポップに歌い上げる、ご機嫌なダンスミュージックに仕上がっている曲です。(後奏がエモいとか、いろいろ話が尽きないのでこの辺で割愛します、、)
2018年の7月に公開されたこのPVですが、僕がききはじめたのは昨年の冬くらいだったかなあ、と思います。
「とびきりの〜」や、「これからの話だけど」等聴き漁っていた僕にとって、衝撃の一言でした。SHE IS SUMMERがノリノリのポップをうたっていない!?メロディをついつい口走ってしまうようなキャッチーさはしっかりと持ち味としてあり、しかし、チルライクに仕上げられたサウンドは、鮮烈でした。
サウンドを科学する
まず、サウンドは前述の通り、チルアウトに属しているような、ノリノリ!とは対極の曲です。 揺れる音とエフェクトと、ビートに合わせた「SHE IS SUMMER」というイントロから、サビに導入されます。
このサビ、聴けば聴くほど、実に恋しくなるようなメロディ作りになっています。まず尺が短く、メロディも詰め込まれているわけでもないので、サビながら、物足りなさがある。でもそれって”良い物足りなさ”に加減されていて、歌詞をしっかり噛み砕いて聴けますし、その後の物語をしっかりと想像できます。
動体的なベースと、コードをゆるく鳴らすクランチギターがうまくSHE IS SUMMERの声を引き立たせていて、ノリノリ過ぎない程よいグルーヴィーさが調和されています。
間奏に移行すると、電子音とともにエフェクトがかけられたギターリフが登場します。コーラスかオクターバーか、空間系にプラスしてワウがやんわりかかってるピーキーなサウンドなので、さながらインドの民族楽器「シタール」のようで、アジア感を演出されています。ですが、リフ自体はシティポップさながらのメロウさを保っているので、そこが良いバランスで、彼女が体現する「夏」を表現しています。べたっとした夏空の雨の日のような、誰もが思い出し得る夏の寂しい1ページ。そんなイメージを受けました。
Aメロに移行し、リリックはスピード感あるフロウ。歌い方のトーンは平坦に進行していきますが、2回し目からドラマチックな展開が待っています。ここは音数も多いので、歌詞の聞き取りやすさは少なくなりますが、その代わり、展開のドラマチックさがリスナーを惹きつけて離さないような構造、注意をそらさず、何を歌ってるか聴き取りたくなるような作り方になっています。
ここで、サビが帰ってきます。既視感(既聴感?)を覚え、少し安心するのも束の間、Cメロでまたドラマチックな展開が待っており、その後の間奏ではクールダウンし、SHE IS SUMMERのハミングに注視できるのも良い構造だと思います。
トータルすると、掴んでは離す、掴んでは離す、といったような人のツボを計算し尽くされたアレンジとなっています。また、サウンドのテーマも奥深く、”何処と無く心が痛くなる夏”や”アジアっぽさ”や”しあわせの普遍性”がしっかりと設定されています。
特に”しあわせの普遍性”こそがこの曲の醍醐味であるのかな、と思考します。楽曲自体は耳新しくなく、何処と無く懐かしく思えるような、どちらかといえば日常を思い出させるような曲。そこにSHE IS SUMMERという非日常的な存在、非普遍的なリリックが加わるから、曲としての完成度、コンセプトの密度がグッと引き立つのです。
「CALL ME IN YOUR SUMMER」のメッセージを推論する
まず、この曲が収録されているアルバムは、様々な角度の様々なアーティストが制作に参加しており、僕の好きな高橋海(LUCKY TAPES)さんも名を連ねています。ですが、一貫して作詞に関してはMICO(SHE IS SUMMER)が担当しています。この曲・このアルバムに対する、SHE IS SUMMERからのコメントは以下になります。
夏が好きだ。季節の中で、一番好きだ。
だって、夏は儚く燃えて散るのがとても美しいから。
経験したことがある人も、ない人も、なぜかみんな共通で思い浮かべることのできる夏の痛々しい心の衝動を、じっとりとした空気に混ぜて歌にしました。これが私の好きな夏の持つ豊かな表情のひとつです。
音の世界にトリップするように気持ちよく聴いてもらえると嬉しいです!
特に抜粋したい部分としては「私の好きな夏」への言及。夏の痛々しい心の衝動をじっとりとした空気に混ぜて歌にしました、という部分。
歌詞の物語として、始まりや終わりの物語ではなく、そこにある”ただ一夏の話”なのです。じっとりとした、なんとなく過ぎていく幸せと不満。ともに過ごす二人にとっては、「幸せ」と「不満」は一定量あり、どちらが多すぎるわけでもなく、少なすぎるわけでもない。それはまさに”夏”、蒸し暑くてジメッとしてだるさに気押されるような、”夏”。過ごしやすさと過ごしにくさが混在し、調和されている、そんな関係。
--幸せって気付けないな
この文章にもすでに要約されています。”幸せ”は確かに存在してるけど、気付けないよなあ、という自覚。それは不満でもあり、幸せでもある。贅沢な不満という湿っぽさにうだってしまうような心境を感じさせます。
-どんな感情だって 膨らんだら痛い
ポジティブな感情でも、ネガティブな感情でも、ありすぎると辛くなってしまう、そんなようなことがシチュエーションですね。
どんな言葉もいらないよ 僕の名前を呼んでほしい
曲名にもある通り「名前を呼んでほしい」という言葉は度々出てくる、いわゆるキメの部分です。「CALL ME IN YOUR SUMMER」は直訳すると少しだけ意味が変わってしまいますが、要は「名前を呼んでほしい」ということでしょう。
名前を呼ぶことで、もっと向き合っていきたい、恥ずかしさだとか感じる心の距離だとか、なかなかさっぱりとした、隔たりのない付き合いができない2人。だからこそ、名前を呼んでほしい。どんな言葉も必要ないのでしょう。
僕は歌う 君の名前を 僕は歌う このメロディで
冷えた床に寝転びながら うなだれている
最後の部分こそ、この曲の醍醐味。前述した通り「終わり」の物語でもなく「始まり」の物語でもないのです。何かが進展したわけでもなく、何かが解決したわけでもない。 でも、それこそが「幸せ」と「不満」の調和なのです。どちらか一方に過不足があれば、成立しなくなってしまうような、そんな淡い関係性。それは一過性の夏のような、不安定な様式美だと思うのです。SHE IS SUMMER、彼女自身、いや、物語に登場する彼ら自身が”夏”なのでしょう。
さいごに
ボーカルのMICOさんが所属していた「ふぇのたす」を前身に、彼女のソロプロジェクト「SHE IS SUMMER」が成り立っています。ふぇのたす時代をあまりよく知りませんが、少なくとも、歌詞の構成やコンセプトの完成度は間違いなく進化していきます。そして、その進化の過程が「CALL ME IN YOUR SUMMER」だと思います。かつてのバンドメンバーの死や、その後のバンドの挫折という、いろんなことを乗り越えた先に今の姿があります。だからこそ、歌詞の深みが増しているような、そんな印象を受けました。
一過性の夏、じめっとした幸せと不安、そんな中過ごす愛し合う二人で音にトリップできるようなナンバーです。これからも僕はこの曲を聴いていきていくでしょうし、時には聴かなくなってしまうでしょう。
それは、なぜか誰の心にも存在する”ただ一夏の話”だから、思い出したり思い出さなかったり、してしまうのでしょう。